まとめ
- Suprema Gaming は、全社的なエージェント型オペレーションへの移行を支えるため、分析プラットフォームを Snowflake から ClickHouse Cloud へ移行しました。
- この移行でウェアハウスのコストは 62% 削減され、クエリのレイテンシは数分からミリ秒へ、データの鮮度は 4 時間遅れからリアルタイムへ改善しました。
- すべての指標は切り替え前に参照元と 1 セント単位で照合されており、AI エージェントにウェアハウスから直接回答させられると事業側が確信できました。
- 現在 Suprema は ClickHouse Agents を早期の本番環境で運用し、専門化したエージェントがグループ横断の各チームに対応しています。
Suprema Gaming は、ラテンアメリカ最大級のゲーミング企業です。2019 年に 3 人のポーカー愛好家が創業し、ブラジルのソロカバに本社を置いています。世界最大の B2B ポーカーリーグである Suprema Poker から成長し、現在は複数ブランドを擁するポートフォリオ企業となり、ライセンス供与した技術は 70 か国以上、500,000 人を超えるプレイヤーに届いています。
2025 年の時点では、誰であっても見られる最新のデータは、すでに 4 時間前のものでした。数千人のプレイヤーが同時にアクティブなビジネスにおいて、この遅れのためにチームは、調査を行うことも、インシデントを診断することも、ユーザーの行動をその瞬間に把握することもできませんでした。
「私たちには、プロセス全体を近代化するというミッションがありました」と、Data Platform Architect の Edilson Junior 氏は語ります。このミッションは、Edilson 氏とデータエンジニアの Aluizio Cidral Junior 氏の 2 人に託されました。Suprema にとってそれは、グループ内で断片化していたデータの全体像を単一のリアルタイム分析プラットフォームに統合し、同時にセキュリティとガバナンスを確保することを意味しました。
このミッションの背後には、より大きなビジョンがありました。共同創業者兼 CEO の Fernando Almeida 氏は、Suprema をエージェントファーストの企業にしたいと考えていました。静的なダッシュボードではなく AI エージェントを使って質問し、その答えに基づいて行動する企業です。
「それをすべて実現するために欠けていたのが、ClickHouse でした」と Edilson 氏は言います。
Snowflake の先へ進む必要があった理由
Suprema の旧スタックは Snowflake 上で動いていました。データはソースシステムから S3 に流れ、SQS と Snowpipe を経由して、Edilson 氏が「堅実で成熟したデータベース」と呼ぶ Snowflake に入っていました。「バランスが取れていてうまく動いてはいましたが、いくつか足りないものがあると気づいたのです」と同氏は語ります。
1 つ目はクエリの速度でした。Snowflake ではクエリに数分かかることが常で、チームがエンドユーザーに届けたいリアルタイムで対話的な体験には遅すぎました。Edilson 氏の言葉を借りれば、「レポートを待つ」のと「リアルタイムに分析する」のとの違いです。
2 つ目は、繰り返し発生する dbt の作業負荷でした。dbt パイプラインが重く、フルリビルドは 1 日 1 回しか実行できなかったため、最新のデータでも常に数時間遅れていました。「ライブデータという選択肢はありませんでした」と Edilson 氏は言います。「完全に事後の分析でした」
3 つ目はコストでした。Snowflake では、ウェアハウスや利用者が増えるごとにコストが増えていきました。そのため、Suprema グループ全体 (社内チーム、プロダクト、パートナー) にデータを開放するというビジョンは、検討することすら高くつくものでした。Snowflake でももっと先まで行けたかもしれないが、それにはかなり多くの資金を費やす必要があっただろう、と Edilson 氏は語ります。
エージェントの未来に向けて ClickHouse Cloud を選ぶ
Edilson 氏が 2025 年に Suprema に加わった時点では、Snowflake が本番の分析プラットフォームであり、問題なく動いていました。2026 年、本番環境に影響を与えずに AI ネイティブな運用に何が必要かを探るため、Fernando 氏は小規模な社内チームを切り出してこのモデルの検証に当たらせました。
ClickHouse への移行を後押ししたのは、いくつかのシグナルの重なりでした。チームはすでにこのエンジンを直接知っていました。Suprema の技術パートナーの 1 社がデータベースを ClickHouse で運用しており、チームはそのシステムに直接触れる機会があり、その速度に一貫して感銘を受けていたのです。また、Suprema のデータ部門のリーダー層も、業界イベントを通じて ClickHouse に馴染んでいました。
確信が深まるにつれ、Edilson 氏は ClickHouse、Databricks、Snowflake の正式な評価を主導し、レイテンシ、コスト、AI 対応度を比較しました。ClickHouse はすべての基準で優位に立ちました。その後、チームは自力で完全な概念検証を構築しました。Edilson 氏は取り込みとエージェント層を担当し、EC2 上の LibreChat と Langfuse によるトレース評価を使いました。一方、Aluizio 氏は dbt の変換層を丸ごと構築しました。
決定的な瞬間は数か月後、Fernando 氏がエージェント化の取り組みを主導するようになったときに訪れました。必要なことは明確でした。エージェントには、新鮮なデータへの高速なアクセスが必要です。その頃には、チームの成果は複数の関係者の口から Fernando 氏の耳に入っていました。最終判断は Fernando 氏のものであり、同氏は明確な信任とともに決断しました。「Edilson、君が ClickHouse だと言うなら、私は君のチームを信頼する」。こうして Suprema は前進し、Snowflake から AWS 上の ClickHouse Cloud へ移行しました。

リアルタイムプラットフォームの設計
「この移行で最も良かった判断の 1 つは、Aluizio がデータのリアルタイム処理を設計したやり方でした」と Edilson 氏は言います。「アーキテクチャは地図を与えてくれましたが、データがシステムの中を流れていくときにどう扱うかは、誰かが定義しなければなりませんでした」
ソースシステムでイベントが発生すると、そのイベントはチームが一度だけ構築したパイプラインを通っていきます。GitHub Actions と統合された dbt が構造全体を一度のパスでデプロイし、そこから先はエンジンが引き継ぎます。パイプラインには外部の cron ジョブも、別建てのオーケストレーターも、Airflow もありません。チームがパイプラインに手を入れる必要があるのは、レイヤーアーキテクチャの設計が変わるときだけです。
データはウェアハウスの各レイヤーを数秒で通過し、p95 の遅延はおよそ 1 分です。利用側では、マートからの直接読み取りが以前のソリューションと比べて 27 倍高速と測定されました。この速度により、ユーザーは会話型 BI エージェントを通じて、会話の流れを止めずに数値を確認できます。
取り込みもリアルタイムを軸に、2 つの別々の経路で再構築されました。ClickHouse がネイティブに対応しているソースについては、ClickPipes が変更データキャプチャ (CDC) で変更をウェアハウスへ直接ストリーミングします。対応していないソースについては、チームは Debezium と Kafka を使い、Kafka は外部クライアント向けの再利用可能なフィードとしても機能しています。かつて Suprema はすべてを S3 に一時保管してバッチでロードしていましたが、移行済みのソースは今では各イベントの発生直後に、秒単位で到着します。

セキュリティとガバナンス: 信頼できる AI エージェントの土台
ウェアハウスをプロダクト、パートナー、外部データフィードに開放できるのは、基盤となるデータが保護され続ける場合に限られます。Aluizio 氏は ClickHouse のネイティブなセキュリティとガバナンスの機能をアーキテクチャに組み込み、Snowflake で使っていた制御を dbt で再現しました。利用者ごとに合わせたロールベースのアクセス制御と、クエリ実行時の PII マスキングです。いずれも外部ツールに頼っていません。
アクセスのしやすさと保護のバランスは、意図して設計したものです。データエンジニアリングチームは Suprema のデータ保護責任者である Leonardo Kimura 氏と密に連携して制御を定義し、統制されたアクセス、トレーサビリティ、最小権限、情報保護をアーキテクチャに直接組み込んでいます。
「私たちの目標は、個人データを保護することだけではありませんでした。最初から、情報セキュリティ、プライバシー、ガバナンスがアーキテクチャの一部となるプラットフォームを作ることを目指していました。これが、機密性、コンプライアンス、信頼を損なうことなく、AI エージェントが実データの上で進化していくための土台になります。 — Leonardo Kimura 氏、Data Protection Officer、Suprema Gaming
Suprema におけるガバナンスは、規制の遵守にとどまりません。同社の AI 戦略を支える中核的な要素です。エージェントは統制対象の利用者として扱われ、アクセス制御、データ最小化、PII マスキング、トレーサビリティ、監査など、プラットフォームの他のあらゆるユーザーと同じ基準が課されます。新しいエージェントがエコシステムに加わるにつれて制御も一緒に進化していくため、Suprema はデータへの信頼を損なうことなくイノベーションを続けられます。
ウェアハウスは事業部門ごとに整理され、その上にプロダクト横断で統合された顧客ビューが重なっています。Aluizio 氏が dbt で構築したこのモデリング手法こそが、Senna の「会社 360 度」ビューを可能にしています。グループ各社は、エージェントがつなぎ合わせなければならない別々のサイロではありません。各社のデータベースは、最初から単一の連結されたシステムとして分析できるように設計されています。
事業が信頼できる数字
Suprema が数字を信頼できなければ、速度はほとんど意味を持ちません。移行の核心は「同一性 (パリティ)」だと Edilson 氏は言います。すべての指標を、本番投入前に参照元と 1 セント単位で照合して証明するのです。事業側が読む数字は、バックオフィスが示す数字と同じものです。これまでに移行したすべてのドメインについて、チームは結果を月ごとに監査し、完全に一致するまで確認しました。まれに数字が合わないことがあれば、特定の原因まで突き止めました。
これを手作業のボトルネックを作らずにスケールさせるため、Aluizio 氏は反復型の検証システムを設計しました。AI エージェントが新プラットフォームの結果を参照元と比較し、不一致を検出し、指標が一致するまで基礎となるルールを洗練させます。検証済みのルールはそれぞれ、バージョン管理された dbt テストとして取り込まれます。移行したすべてのドメインは切り替え前にこのループを通過しており、かつては手作業だった「1 セント単位で証明する」という作業は、繰り返し実行できるプロセスになりました。
この検証プロセスは、取り込みの欠落や、指標を歪めていたテストアカウントなど、それまで見えていなかった問題も明らかにしました。そのひとつひとつが、追跡可能なコード上の修正になりました。
ClickHouse はクエリにミリ秒で応答するため、この確認作業は遅くて別建てのレポーティングサイクルではなく、チャットウィンドウの中で会話しながら行えます。多くの企業は、エージェントを支えるよう設計されていないデータに LLM を接続することから始めます。Suprema はその逆の順序で土台を築き、アーキテクチャ上の選択のひとつひとつで、AI にデータを扱わせるときにありがちな失敗に対処しました。
データは正規化された唯一の正本なので、エージェントが一貫しない回答を返すリスクが減ります。データはリアルタイムなので、回答は昨日起きたことではなく今起きていることを反映します。クエリはミリ秒で返り、会話の流れが途切れません。そしてガバナンスは組み込み済みで、クエリ実行時の PII マスキングと利用者ごとに定義された最小権限アクセスにより、エージェントは機密情報を露出させずにパートナーに対応できます。
Suprema のエージェント型オペレーションへの移行を支える
Senna は、Suprema のエージェント型システムのうち、利用者の目に触れる部分です。ビジネスユーザーは Senna を通じて、会話形式で質問し、数字を確認し、インサイトに基づいて行動できます。しかしその背後には 10 体の専門エージェント群があり、データモデリングや dbt 開発から、検証、鮮度の監視まで、それぞれが異なる機能を担っています。

エージェントの知識は、ばらばらのプロンプトの寄せ集めの中にあるわけではありません。ドメインごとに 1 つ、合計 6 つのバージョン管理されたスキルとしてエンコードされ、リポジトリでコードとして管理されています。マートが変更されると、対応するスキルも同じプルリクエストで更新されます。エージェントの知識がパイプライン自体と同じバージョン管理プロセスで統制されているため、各エージェントは即興に頼らず、質問を正しい構造へ振り分けられます。
Suprema のアプローチがとりわけ特徴的なのは、現在事業を支えているエージェントプラットフォームである Senna 自体が、エージェントによって構築された点です。Snowflake から ClickHouse への移行は、レイヤーアーキテクチャ、取り込みパイプライン、すべての dbt モデルの仕様策定を含めて、開発期間を通じて ClickHouse Cloud に直接アクセスできるエージェントが実施しました。
作業は各トラックにわたって仕様駆動のアプローチで進められました。Aluizio 氏は dbt のモデリングと変換を主導し、Edilson 氏は取り込みに集中しました。その結果できあがったのが、エージェントが構築したプラットフォームであり、それが拡大を続ける専門エージェントのエコシステムを支えています。AI が土台の構築を助け、その土台の上で別の AI システムが動くという連続性こそ、Suprema が「エージェントファースト」と呼ぶものです。
このシステムは完全なオブザーバビリティも備えています。すべての会話は Langfuse に統制されたトレースを生成し、そこにはレイテンシ、コスト、各回答の背後にある SQL が含まれます。これにより、エージェント層はデータパイプラインと同じように監査できます。
「会社のデータの全体像を持っていないのに、どうやって AI に『これを分析して』とか『ここで手を打つことを推奨します』と言わせられるでしょうか。ClickHouse を基盤とする Senna は、事業全体の経営情報を集約し、財務と会計を、マーケティング、グロース、人事管理とつなぎます。標準化された会社の 360 度ビューを与えてくれ、そのデータを、日々意思決定をしている人たちのための実践的なインサイトに変えてくれます。結果として、私のマネージャーたちがより良い判断を下す力を増幅してくれるのです」 — Fernando Almeida 氏、共同創業者兼 CEO、Suprema Gaming
おそらく最も新しい部分は、チャットそのものを通じて回る「自己強化型のフィードバックループ」だと Edilson 氏は付け加えます。ビジネスユーザーがエージェントに質問し、ライブデータに基づいた回答を得ます。それをバックオフィスと突き合わせ、数字がおかしそうなら、スクリーンショットをエージェントに送り返します。エージェントには計算を確認し、何を変える必要があるかを指摘するためのコンテキストがあります。ユーザーはその会話を Edilson 氏のチームに共有し、チームは正しい対象に修正を加え、その改善がプラットフォームに反映されます。データチームがあらゆる依頼のたびに呼び出されることはなく、回答はシステムから返ってきます。そしてこのループが回るたびに、システムは良くなっていきます。

このエージェントファーストの考え方は、グループ全体に根付きつつあります。「エージェント型アナリティクスを巡るコミュニティ的な考え方が、ますます広がっています。社内チームが私たちともっと一緒に働くようになるだけでなく、プロダクトチームもこのエージェントの世界を持ち始めています」と Edilson 氏は言います。「私たちはダイナミクスを生み出し、ウェアハウスを構築し、実際の数字に基づいて意思決定者に新しい道筋を示せます。そして今では、パートナーが API 経由で ClickHouse からこのデータを利用できるようにもなりました」
成果: より速く、より新鮮で、62% 安く
Suprema が Snowflake から ClickHouse Cloud に切り替える際に最も改善を期待した領域の 1 つが、クエリの速度でした。結果はその期待を裏付けています。Edilson 氏の言葉では、「私たちは分の単位で話すのをやめ、ミリ秒の単位で話すようになりました」。データの鮮度も大きく向上しました。かつては表に出るまで 4 時間かかっていたデータが、今ではリアルタイムで届き、パイプラインはそれを約 1 分以内の鮮度に保ちます。
そしてそのすべてが、はるかに安価です。Edilson 氏によれば、ClickHouse Cloud への移行で Suprema のウェアハウス支出は約 62% 削減されました。重要なのは、以前の構成のように、事業がウェアハウスや利用者を増やすたびにコストが膨らむことがなくなった点です。
「以前は、締め切りに間に合わせるためにすぐ成果を出し始めなければならず、時間の 20% を計画に、80% を実行に使っていました。今ではその比率が逆転しました。80% の時間をじっくり計画し、事業を細かく理解することに使い、残りの 20% で AI ツールを使って実行を加速しています」 — Fernando Almeida 氏、共同創業者兼 CEO、Suprema Gaming
現在 Suprema は、ワークロードの大部分を ClickHouse に移しています。この方法は今や繰り返し使えるプレイブックです。ソースとビジネスルールを把握し、変換を移植し、1 セント単位で検証し、切り替え、自動化し、そして次のドメインでもう一度実行する。グループの複数のプロダクトがすでに本番でこの一巡を完了しており、プロセスが機能することを証明しています。だからこそ次の波は、もはや賭けではなく、日程の問題にすぎません。データソースは変わっても、方法は同じままです。 この変革はデータプラットフォームの先にも広がっています。Suprema グループのすべての企業が、同じアプローチと考え方でエージェントの世界へ向かっています。各社が加わるごとに Senna のプロダクト横断ビューは広がり、エージェントは事業をより深く理解していきます。
Edilson 氏が主導し、Fernando 氏をはじめとする経営陣が後押ししたこの取り組みは、低レイテンシと低コストを求める動きとして始まり、最終的にグループの働き方そのものを作り変えました。Suprema は AI エージェントで動く企業となり、次に来るものへの準備を整えています。



